サライ.jp:2023年10月21日「自身の虐待経験と親子連鎖」についての調査リリースの内容が掲載

【家族のかたち】
「うるさい、しゃべるな!」ネグレクトで育った私が子育ての中で娘を無視してしまう理由


写真はイメージです。

昭和、平成、令和と時代が移り変わるのと同様に、家族のかたちも大家族から核家族へと変化してきている。本連載では、親との家族関係を経て、自分が家族を持つようになって感じたこと、親について思うことを語ってもらい、今の家族のかたちに迫る。

小学3年生以下の子どもの放置を“虐待”と位置付け、禁止するという条例改正案が一時埼玉県議会で可決され、問題になった(現在は撤回)。この改正案は、放置の定義があまりにも世論とかけ離れていたことで多くの物議を醸していたが、その一方でこども家庭庁がまとめた「令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)」では、子どもが親などから虐待を受けたとして児童相談所が相談を受けて対応した件数は21万9170件で過去最多となっているという現状もある。

合同会社serendipityでは、20歳以上50歳未満の子持ち男女全国4,000人を対象に「自身の虐待経験と親子連鎖」についての調査を実施(実施日2023年3月29日、有効回答数:20歳以上50歳未満の子持ち男女全国4000人(男女各2000人)、インターネット調査)。調査では、「未成年期に虐待(※1)を受けたことはあるか?」との問いに、男女とも9割弱は「受けていない」と回答した一方、「自分自身が受けていた」(男性:9.2%、女性:11.7%)や「自分自身は受けていないが、兄弟姉妹が受けていた」(男性:2.7%、女性:1.4%)と回答した人が1割超いることが判明している。

今回お話を伺った静香さん(仮名・42歳)は現在、夫と2人の子どもと暮らしている。静香さんが小さいときには虐待という言葉を知らず、当時のことを「少しずつ、母親のことを嫌いになっていった」と振り返る。

(※1)虐待の定義は、厚生労働省の「児童虐待の定義」参考

母親はパチンコ依存だった


静香さんは福岡県出身で、両親と7歳上に姉のいる4人家族。福岡で暮らしていたのは小学校3年生まで。両親の離婚で、母親と姉との3人で母方の祖父母の暮らす兵庫県に引っ越している。しかし、その数か月後に父親も3人を追いかけてきており、結局4人で暮らしていたという。

「両親が離婚するときにどっちと暮らすかを選ばされて、父親は仕事ばかりであまり接点がなかったので母親を選びました。最初は祖父母の家で暮らしていたのですが、なぜか父親とまた一緒に暮らすことになり、祖父母の家の近くのアパートで4人で暮らしていました。

父親が帰って来たときに、両親はやり直したんだって思っていたのですけど、2人は離婚したままでした。離婚する前も後も2人はケンカばかりしていて、結局父親はフェードアウトするように家に帰って来なくなりました」

父親が帰って来なくなってから、家のお金は極端に無くなった。父親は離婚後も養育費などのお金は渡していたものの、母親のギャンブルでそのお金が消えていたのだ。母親は離婚理由を「相手の暴力」と静香さんに言ったが、静香さんは母親のギャンブルのせいだと今も思っている。

「母親はパチンコばかりしていました。結婚していたときは専業主婦だったのに家に母親がいることは稀でした。私は母親に用事があると近所にあったパチンコ屋に母を探しに行っていたこともあります。

離婚後も母親は働いていなくて、父親から、そして祖父母からの援助で生活していたと思います。それだけでも生活はギリギリなのに、パチンコをするから余計に……。いつからか学校で必要なものがあると、アルバイトをしていた姉に相談するようにもなっていました」

母親は唯一残った私にも冷たかった

年々母親と姉の関係が悪化していき、姉は高校を卒業後に家を出てしまう。それでも姉と静香さんの関係は良好のまま続いていたが、姉が結婚したことがきっかけで、姉との関係は途切れてしまったという。

「働き出した姉に母親はお金の無心を続けていました。姉も断ればいいのにそれでも母親だからと貸していたんだと思います。でも、それをよしとしなかったのが姉の夫でした。姉の夫は母親や私との縁を切れと迫り、姉はそれに従いました。

姉が結婚後も私とは連絡を取り合っていたのですが、『もう何もできない。ごめんね』と言われました。姉は幸せそうだったから、あのときはそれでよかったんだと思います」

母親と2人きりの生活を「しんどかった」と静香さんは振り返る。静香さんが中学、高校時代を振り返ってみても母親とのいい思い出は一切ないという。

「母親らしい姿なんて見たことないのに、それでも母親像を求めてしまうんですよね。高校のときはもう諦めていましたけど、中学のときは学校のことを相談したら親身になって話を聞いてくれるかなとか、思っていました。でも、母親から返ってきた言葉は『うるさい』。母親とはただ一緒の空間にいただけです。自分の生活は祖父母からもらったお金でしていました。

母親は料理もしない人だったんですけど、冷蔵庫に作り置きの料理があったことがあって、私は嬉しくなってそれを食べたときには、『勝手に食うな!』って怒られましたから」

写真はイメージです。

小学3年生以下の子どもの放置を“虐待”と位置付け、禁止するという条例改正案が一時埼玉県議会で可決され、問題になった(現在は撤回)。この改正案は、放置の定義があまりにも世論とかけ離れていたことで多くの物議を醸していたが、その一方でこども家庭庁がまとめた「令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)」では、子どもが親などから虐待を受けたとして児童相談所が相談を受けて対応した件数は21万9170件で過去最多となっている。

合同会社serendipityでは、20歳以上50歳未満の子持ち男女全国4,000人を対象に「自身の虐待経験と親子連鎖」についての調査を実施(実施日2023年3月29日、有効回答数:20歳以上50歳未満の子持ち男女全国4000人(男女各2000人)、インターネット調査)。調査では、「未成年期に虐待(※1)を受けたことはあるか?」との問いに、男女とも9割弱は「受けていない」と回答した一方、「自分自身が受けていた」(男性:9.2%、女性:11.7%)や「自分自身は受けていないが、兄弟姉妹が受けていた」(男性:2.7%、女性:1.4%)と回答した人が1割超いることが判明している。

孫という存在が一度は母娘をつないでくれた

姉と同じく、早く家を出たかった静香さんは高校卒業後にアパレルブランドの販売員になり、当時付き合っていた年上の男性と同棲を始める。その男性と結婚とはならなかったが、別れた後も一度も実家に戻ることなく、26歳のときに4歳上の男性と結婚した。

「最終的には母親の顔を見るだけでイライラするようにまでなってしまっていました。母親のため息が聞こえると、こっちのほうがため息をつきたいよと心の中でずっと暴言を吐いていましたね。暴言は心の中だけなので、表面上はただ会話がないだけです。向き合うのも嫌だったから。

早く死んでほしいとも思っていました。そんな願いは通じず、私が高校を卒業してから結婚するまでの間に祖父母や父親が亡くなりました。母親だけが元気な状態でした」

結婚してすぐに静香さんは妊娠し、無事女の子を出産する。慣れない子育てに、周囲に誰も頼れる人がいなかったこともあり、静香さんは母親に頼ってしまったという。「絶対に役に立たない」との予測は大きく裏切られる。

「子どもができたときには姉は旦那さんとともに地方で暮らしていて、そして夫には父親しかいなくて、本当に誰にも頼れなかったんです。そこまで仲の良い友人もいませんでしたから。

母親とは社会人になった後に何度もお金を借り来られていましたが、何度かそれを繰り返した後に突っぱねたのでそれっきり。結婚したことも伝えていませんでした。だから、久しぶりに実家に電話したときは、緊張で声が震えてしまったほどです。

母親は孫の誕生をとても喜んでくれて。母乳が出ないことなどの相談にも乗ってくれました」

母親と向き合ってもらえなかった私は、今子どもと向き合えない

孫を介しての母親との和解を経て、今までで一番母親との関係は良好だった。心配していたお金の無心もなかったという。しかし、そんな関係は半年も経たずに終わってしまう。

「母親が亡くなってしまったんです。くも膜下出血で、実家で1人のときに……。やっと母と娘になれそうだったのに。

大嫌いな状態のままでいなくならなかったことが唯一の救いですかね。姉とは険悪なままだったので、葬儀のときの姉は何とも言えないような顔をしていたから」

静香さんは現在2人の子どもの子育てを継続中だが、下の息子との関係は普通なものの、上の娘との関係はうまくいっていないという。

「娘が思い通りの行動をしてくれないとイライラしてしまって、娘を避けてしまうんです。娘と向き合ってケンカをするのが怖くて……。下の子と違って、娘は言いたいことを遠慮なく言ってくるタイプなのですが、嫌われたくない思いから言い返すこともできずに、結果無視をしてしまっていました。そして、今は娘からも無視されていて、あのときの母と私の状態にそっくりなんです。やっぱり子育ての部分も遺伝するのでしょうか」

冒頭で紹介した調査では、「虐待は親から子へ連鎖すると思うか?」という質問もあり、虐待経験の有無にかかわらず「連鎖すると思う」(自身または兄弟姉妹が虐待を受けていた男性:45.1%、自身または兄弟姉妹が虐待を受けていた女性:47.3%、虐待を受けていない男性:45.6%、虐待を受けていない女性:57.1%)と回答した人が「連鎖するとは思わない」(自身または兄弟姉妹が虐待を受けていた男性:20.3%、自身または兄弟姉妹が虐待を受けていた女性:22.3%、虐待を受けていない男性:21.4%、虐待を受けていない女性:11.8%)という回答を大きく上回っている。


いい行動、悪い行動を含め、親の影響を子どもは受けて成長する。静香さんは母親が嫌いだった過去から、子どもに嫌われたくないという思いが強いように感じる。暴力などの虐待と違い、ネグレクトは周囲に発見されにくい。静香さんのように精神的な放置を含めると実数はもっと多いだろう。



取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。


※Yahoo!ニュース、マイナビ子育て等、多数のニュースサイトに掲載されました。