日刊SPA!に「30代でFIREを達成したのに「幸せになれなかった理由」。経験者が語る“セミリタイアの落とし穴”」が掲載:2024年8月28日

30代でFIREを達成したのに「幸せになれなかった理由」。経験者が語る“セミリタイアの落とし穴”


皆さん、こんにちは。メンタルトレーナーの三凛さとしです。私は20代で借金と挫折を経験し、その中でメンタルトレーニングの重要性に気づきました。その後、ビジネスに成功し、30代で一度FIREを達成。その体験などをもとに「人生を好転させるヒント」をSNSで発信しています。

 日刊SPA!では「ストレスなく生きていくための方法」をお伝えできればと思っております。連載第2回となる今回は「30代でFIREを達成しても幸せになれない理由」について、お話していきます。

なぜ、多くの人はセミリタイアしても幸せになれないのか

昨今、「セミリタイアして悠々自適な生活をしたい」「仕事をしてお金を稼がなくても不安のない人生を送りたい」と思う人は年々増えているように思います。現時点でも、セミリタイアやFIREという夢に向かって、一生懸命努力している方も多いかもしれません。

 ただ、冒頭から夢のない話で本当に申し訳ないのですが、はっきり言わせてください。残念なことに、若いうちにセミリタイアをしても、多くの人は幸せにはなれません。

 なぜ、多くの人が憧れるセミリタイアを実現しても、幸せになれないのか。今回は、30代でセミリタイアを果たしたものの、数か月で仕事に復帰した私の実体験を通じて、その理由を解説させていただきます。

 

25歳で退職し「セミリタイア」を志す

 私がセミリタイアを考えるようになったのは、25歳ぐらいの頃です。新卒で入った会社で将来に希望が持てなかった私は、入社3年目で退職し、「アメリカでファッションデザイナーになる!」という壮大な夢を描いて、NYへと渡りました。

 しかし、無計画にもアメリカに乗り込んだ先に待っていたのは、とてつもない極貧生活でした。ドブネズミが走る縦1.5メートル横幅1メートルほどの小さな木箱の中に住みながら、バーテンダーとして働いて日銭を稼ぐ日々は、今思い出しても本当にキツかったです……。

 さすがのド底辺生活に危機感を抱き、「仕事やお金に囚われず、経済的に自立したい。セミリタイア生活をめざそう!」と一念発起。3年間必死で試行錯誤した末、寝ていても遊んでいても収益が上がるようなビジネスの仕組みを構築することに成功します。そこから年間1億円ほどの利益が入るような状況になり、いよいよ私は念願のセミリタイア人生をスタートさせたのです。

 

まったく楽しくなかったセミリタイア人生

憧れのセミリタイア生活は、最初はとても気ままで楽しいものでした。好きなときに好きな場所に行ける。もともと海外生活が好きだった自分にとっては、理想的な生活でした。

 しかし、数か月ほどすると、徐々に異変が現れ始めます。

 何をしても、楽しくない。毎日、生きている実感が得られない……。

 気が付くと、あれほどまでに憧れていたセミリタイア生活よりも、「セミリタイアしたい」と頑張っていた日々の方が懐かしさを感じてしまうようになりました。その時点で、セミリタイア生活がほとほと嫌になっていたのだと思います。

 当時の私は、毎日のように「自分は何をしたらいいのか」と考えながら、ただフラフラと海外に行って、一見楽しそうに見える写真を撮影しては、SNSに投稿するだけの日々を続けていました。

 

目標を失ったことで人生が不幸に…

 夢のセミリタイアを実現できたのに、どうしてこんなに楽しめないのか。悩み続けた結果、その理由は、自分自身が「セミリタイアをする」という大きな目標を失ったからだと気が付いたのです。経済的な自由は得たものの、目標がなくなったことで、毎日なにを目指して生きればよいのかわからなくなっていたのでしょう。

 実際、私と同じようにセミリタイアを達成した人に会ってみても、一時は満足しても、人生の目的を見失い、以前よりも表情が暗くなった人ばかり。いまだに「セミリタイアしたいまが、人生で一番幸せ!」と笑顔で答える人には、ほぼ出会ったことがありません。

 

日々新しいことに挑戦することが本当の幸せ

 では、どうしたら自分は幸せになれるのか。それを考えるべく、私は自分の過去について振り返ってみました。すると、セミリタイアをめざして日々新しいビジネスを考えたり、自分が世の中に提供したものを喜んでもらったりしたときこそが、もっとも幸せな瞬間だったなと気が付いたのです。

「自分は、日々目標をもって、新しいことに挑戦して、人から喜ばれることが幸せなんだ」

 そう気がついた私は、再び仕事を始めるようになりました。最初は、「とはいえ、本気で仕事を始めたらしんどいよな」「やることも増えるし忙しくなるのも嫌だな」との思いがあったため、どこか本気で仕事には打ち込めていなかったように思います。

 しかし、中途半端に仕事をしても、中途半端な結果しか得られないため、なかなか楽しくなれない。「自分に負荷をかけないと、幸福感は高まらないのかもしれない」と気がついてからは、セミリタイア前よりもさらに毎日全力で仕事に打ち込むようになりました。

 また、セミリタイア前と大きく変わったのが、楽をすることに興味がなくなり、純粋に仕事を生きがいだと感じるようになったことです。昨今日本では「好きなことで生きていく」ということや「FIRE(経済的自由の実現)」といったキーワードがとても人気ですが、これは多くの方は極力自分は面倒なことをせず楽をして良い思いをしたいと思っているからです。

 しかし、楽をしたいと思っている状態というのは「仕事=面倒なこと、嫌なこと」だと本質的に信じてしまっているということなので、これは本質的には不幸なことなんだと私は結論づいています。

 一度セミリタイアして良かった点は、楽することを目指して生きるよりも、世の中や他者から少しでも喜んでもらえるように試行錯誤する生き方の方が魅力的だと気づけたところと、自分もそうなりたいと思えるようになったところだと感じています。

 

社会貢献する人が憧れられる世の中になってほしい

経済的自立を果たし、セミリタイアやFIREをめざすこと自体は、まったく否定するつもりはありません。ただ、経済的な自立は、あくまで「自分の納得のいく人生」を歩むうえでの通過点にしか過ぎないと思います。

 問題は、その先に自分がどんな人生を望むかです。「セミリタイアで悠々自適の生活をしたい」という目標だけを追いかける人は、いざ達成した途端に、人生の目的を失ってしまいます。それこそ、かつての私のように。

 では、仮にセミリタイアを実現したら、どんな目標を持つべきなのか。そこで私が提案したいのは、「自分にとって新たな挑戦となる仕事をすること」です。やはりある程度自分に負荷をかけないと人生は停滞していくからです。

「仕事をしたくなく、暇になりたいからセミリタイアするのだ」という人にとっては矛盾を感じるかもしれません。でも、挑戦や成長のない人生ほど生きている手応えが感じられないものはありません。

 最近注目されているカリフォルニア大学の研究においても「1日の自由時間が5時間以上ある人は精神的に病みやすくなる」という結果が出ていますが、これはまさにセミリタイヤして暇になった人が幸福度を落としてしまうエビデンスの1つです。

 これまで私は数多くの幸せな億万長者を見てきましたが、その共通点は「豊かで幸せな人は仕事が大好きだ」ということです。そして仕事が大好きだから結果が出るんですね。

 結果を出すから豊かになる。そして、経済的に豊かになっても、仕事は好きだからずっと続けていき、その仕事が周囲の人に感謝され、その感謝がモチベーションとなる。こういった好循環が生まれている気がします。

 逆説的な話ではありますが、「仕事が嫌いだ」と言っている人ほど、いつまでも経済的自立は実現できないのではないでしょうか。

 現在、日本では「会社や仕事が嫌だ」と感じる人が多く、FIREやセミリタイアを実現した人を尊敬する風潮も根強いです。でも、FIREする人ばかりが増えると、経済も停滞するし、いまよりもっと夢のない未来が待ち受けています。

 だからこそ、セミリタイアする人に憧れるのではなく、経済的自立を果たしてもなお、仕事や事業を通じて世の中に貢献するような“本当に豊かな人”たちが、世の中で憧れの存在になってほしいなと、心から思っています。

文/三凛さとし